はじめまして、営業企画班の中島です。
今回、ブログを書かせていただくことになりました。
暑さも本格的になり、何もしていなくても汗が出る!という季節になりました。
寒さにも暑さにも弱い私としては、夏早く終われの一念で日々を過ごしています。
夏は夏の楽しいイベントがあるんですが、アスファルトから立ち昇る熱気を見るともうだめです。生気がみるみる奪われます。
夏好きな人を尊敬します……。
今日は、絵本を読むのを趣味にしている私から、感動した絵本を一冊ご紹介。
私の好きな作家のひとりの、ショーン・タン。
代表作は、『ロスト・シング』『エリック』『夏のルール』『アライバル』があります。
その中から、彼の作品の中でもっとも有名だと思われる、『アライバル』の話を。
──まるで無声映画のような、大人向けの絵本『アライバル』
装丁はずっしりと重く、重厚なデザイン。足元の不思議な生物をやや身をかがめて見る壮年の男性の姿が描かれています。全体的にセピア色の様相を帯びた古い本のようで、不思議な物語の予感を感じます。映画館の座席に座って映画が始まるのを待つときの気持ちに似た思いが去来します。わくわくとはまた違った、なんとなく厳かな気持ち……
この本は大人向けですよ、というやんわりとしたメッセージさえ伝わってくるような気がします。
さて、ページを繰るとどうでしょう、ページのここかしこに描かれる、不思議な生き物、建物。
セピア調で統一された絵はノスタルジーを引き起こし、ここではないどこかに確かにある世界を思わせます。
ときには大きく見開きを使って、ときにはいくつもコマ割りして、ゆっくりと、静けさの中で淡々と「絵」が展開していきます。
そう、この本には、文字が一つもない本なのです。
まるで無声映画。
圧倒的な世界観を、緻密なイラストで表現した「グラフィック・ノベル」です。
見開きいっぱいに描かれた鳥瞰風景を見たとき、圧倒的な感動が湧き上がります。
それは喜びというひとつの感情だけではなく、何か大きな、圧倒的なものに気おされたときに感じる感動です。
──無声映画のストーリーは胸打たれるものだった
この本が大人向けであるのには理由があります。扱っている題材が、ただ単に不思議な異世界の不思議なお話に終始しないからです。主人公の男性は、妻と娘を残して、遠く異国に働きに出ます。全く知らない異国に降り立ち、心細さの中で仕事を探し、狭い部屋で一人で生活を始める。文字が無いからこそ、伝わってくる男性の心細さ、心もとない気持ち。異国の言葉も分からないという戸惑い、不便さ。
その中で、男はいろいろな事情を抱える人々と出会います。祖国にはいられず、命からがら逃げてきた彼らは難民です。
生々しく、確かにそこにある現実。決して幸福ではなかった彼らは生きるために、遠い異国まで逃げてきた……
ショーン・タンの確かな筆致は生々しく、それらは訴求力をもって迫ってきます。
男が懸命に働く理由を理解したとき、大きく心を揺り動かされました。
──最後に
これは大人のグラフィック・ノベルです。
転勤する人、した人、新しい仕事を始める人、頼るものの少ない場所で何かを成そうとする人の不安や心もとなさに重なる部分があるのではないでしょうか。
この本は、それでも生きていく、生きていかねばならないという苦しみと心細さ、そして希望を垣間見せてくれます。
作者のショーン・タンのこの作風は、移民であった父の経歴が影響を与えているといわれています。
読み終わったあとは、長い無声映画を見終わったような感覚になります。
ラストシーンにはまたも感動。
これほどまでに心に迫るエンディングを絵本で見たことはありません。
──余談ですが
読むならあえて海外版で。
日本語の奥付などでなんとなく余韻が薄れてしまいます。
同作者の著書で他のお気に入りは『エリック』。
こちらは手のひらサイズの絵本で、文字があります。
お国柄なのよ、と異文化を大きくくるむこの一フレーズが好き。
ぜひとも気が向いたら、『アライバル』とともに手にとって見てください。